Diary 115 - 洋服のB面
Diary 115 - 洋服のB面
5月も中旬、シーズン的には折り返しを迎えた。3月から春夏コレクションを立ち上げて早2ヶ月が過ぎ、今シーズンもまた1着、1着と、丹念に丁寧に選んだセレクションが誰かの元に引き取られる。毎シーズンのことだけれど、これすぐに無くなるんだ!っていうものと、これなんでまだお店にあるんだろう?っていうものと、自分の買い付けの答え合わせをしているようで楽しい。基本的に自分たちが欲しいもの、ピュアに素敵だと思うもの、よくわかんないけどワクワクするもの、大きく分けてそういう3つの選び方をしていて、ほとんどは前者から順に売れていくことが多いのだけれど、たま〜に反対の順番になることもあって、その度にお店って面白いなあとか、うちのお客さんって面白いなあとか、そういうぽやっとした徒然を肴にして酒を飲むのがこれまた常となっている。この前の週末からMuktaの洋服の一部を裏返して並べている。
自分自身が洋服を裏返しで着るのが好きで、それはレコードのA面B面みたいに、愛着を持って着ている洋服が違った表情になるのが面白かったり、プリントTシャツのサイズ感や生地感だけ着たい時にグラフィックを隠すことができたり、赤瀬川原平の「宇宙の缶詰」という作品に感銘を受けたことがあったり、インサイドアウトはパンク的である、という刷り込みを若い頃に受けたからであったり、赤ちゃんの服はお肌がチクチクしないようにシームが外側にあるということを教えてもらったからであったり、とにかくまあ、洋服を裏返して着ることが、自分にとって袖を捲ったり裾をロールアップしたりするのと同じくらい日常的な着こなしの一つであるということだ。
Muktaの洋服を裏返して並べているのは、この服を裏返しで着たら、なんていう意味ではなくて、既に並んでいる洋服に対して、君たちそんな表情もできるんだね、そんな一面もあったんだねということを知って欲しいからだ。裏返すと、当然シームは表に来るので、この服ってよく見ると不思議なパターンをしてるんだね、とか、この生地って裏面もかっこいいんだね、とか、このブランドって実は裏地もすごく拘ってるんだね、とか、文字通り表面上ではわからないことが少しだけ顔を出してくれる。
食材の旬のように洋服も移りゆく。シーズン序盤と中盤と終盤では違って見える。洋服が好きな自分たちにとっては、そういう一言で言い表せない洋服の機微に気づくと、日常が豊かになる気がする。表面上では分からない色んな良さがある。
人間と同じように。
イタイ年中着ているエンソウの黒のジャケットは裏返して白のジャケットに。白のジャケットも持ってるんだけど、裏返した白のジャケットであるというのがいい。
プリントTeeの主張が強く感じる時は裏返す。ちょっぴり透けてる。