魂 / "SUKUMO INDIGO DYED DUFFLE COAT" by Kozaburo for Mukta / Sal
服の魂が見えます。
そんなことをいうと、ああ君もやっぱり服の亡霊に取り憑かれたうちの1人なんだね、という心の声が聞こえてきそうですが、やはり、あると思う。視覚的に分かる迫力や手の込み具合もいいけれど、そういったものを度外視してなにか"うねり"のようなものをモノから感じることがある。その原因はわからない。言語化できない。というより、途轍もない数の言葉の、表現の引き出しがあるような感覚。おそらく完璧に言語化できた瞬間にその魂、ゴーストはどこか遠くの方に行ってしまうのではないか。だから、魂の存在を感じない服は最初から魂が不在だという訳ではなく、簡単に言語化できてしまう、そういうことではないだろうか。モノを生み出している人間そのものがそういう、曖昧な存在だからではないだろうか。抜群に旨い寿司を食べた時、ヤバい以外の言葉を失うあの現象なんなんだ。あの瞬間、その寿司には確かに魂のうねりを感じる。
NYからスペシャルなピースが届いた。
僕がNYに拠点を置く赤坂公三郎氏に依頼し、「藍染を藍染という説明だけで終わらせない」ことをテーマに、スペシャルな藍染ダッフルコートを製作してもらっていたのだ。
KOZABUROといえば、侘び寂び精神を持つウエスタンというか、西洋的なカルチャーと東洋的な思想をYing-Yang的に融合させた洋服作りで知られている。刺し子生地を使ったトラッカージャケット、マスキュリンで逞しいテーラードジャケット、漢字のモチーフ、誇張されたブーツカット、青錆のジュエリー、襤褸?ボロボロ?のシャツ。などなど。そのKOZABUROだからこそ、「藍染を藍染という説明だけで終わらせない」アイテムを作ることができるのではないか、と思い、依頼した。フードとカフには日本の古布。手まつり仕上げ。些細な箇所がうねりを生む。
ヴィンテージのグローバオールやエルメスの鮮やかな発色のダッフルコートに憧れてきた。メルトンではなく、亀甲模様のオリジナル刺し子を藍染。まだ見ぬ世界の始まり、ワクワクする時間、夜明け前をイメージして「未明」と名付けたカラー。
自分が何かお買い物するとき一番ガッカリする瞬間というのは、たとえ本当に凄いことだとしても、言語化されすぎているというか、ヤバいとかワクワクするとか以外の言葉が一番最初に来ちゃうときというか。逆にいうと、よく分からないけどなぜか高揚するあの瞬間、自分の中にきっとあるはずの適切な言葉を、頭の中の引き出しを片っ端から開けても開けても、最初から無かったように見つからない感じになる瞬間って、やっぱ最高だなって。だから、本当に凄い技術であるはずだけど言語化されすぎているように感じる「藍染を藍染という説明だけで終わらせない」ことを目指した。
藍染の素晴らしい技術、美しい生地を使いながら、そこに魔法をかける感覚で、別物へと変貌させる。オリジナルの刺し子生地を、KOZAUROのアーカイブ・デザインを参考にダッフルコートの形に載せ、徳島で製品染めを行ったのち、公三郎さんのNYのスタジオでカスタムされてまた日本に送られてきたこのコートは、相当な存在感を放っている。ハンドメイドのトグルはヘラジカの角。古来から縁起がいいものとされている。割れた陶器を修復するのに使われた馬蝗絆からインスパイアを得たステープル。亀甲模様に鹿のツノ。極め付けの馬蝗絆。字面動物園ですね。
大切な企画になりました。魂を感じる服だと思います。現在受注予約を受付中です。よろしくお願いします。
Sukumo Indigo Dyed Duffle Coat by Kozaburo / Phantom Ranch for Mukta / Sal
NYを拠点に活動する赤坂公三郎氏に依頼し、天然藍染のダッフルコートを製作してもらいました。いわゆる藍染、というイメージとはかけ離れた繊細で淡いブルーをリクエスト。1日の始まりやこれから新しい世界への扉が開いていくような希望を込めて、夜明け前を意味する"未明"というカラーを名付けました。
"天然灰汁発酵建て"という藍染めの手法を用いた刺し子生地、ヘラジカのツノを用いたハンドメイドのトグルにはステープルが施され、フードとカフスには藍染の古布が手まつりで仕上げられています。
まず製作したこちらのアイテムはすでにソールドとなっておりますが、4.4(金)まで受注予約を受け付けています。あまりにも工程に手作業を要するアイテムのため、納期はおおよそ6ヶ月、仕上がりはアソート、生産の上限は5着です。店頭にてサンプルをご覧いただけます。遠方のお客さまはinfo@mukta.jpまでご連絡ください。
徳島の藍染師、渡邉さん率いるWatanabe'sによる藍染。原料から栽培し、長い時間をかけて発酵させたすくも藍染め。天然灰汁発酵建てと呼ぶらしい。この技法しか出せない繊細なブルー。近々、勉強のために徳島のアトリエにお邪魔する予定。
余談:
個人的に10代からのお付き合いで、実は僕がMukta / Salで働き始めたのも、公三郎さんの存在がきっかけなんですよね。19歳とかそのくらいの自分が初めて強烈にキラキラしたものを感じたデザイナーであり、昔、自分が働いていた大阪の古着屋に遊びにきてもらったり、東京・谷中のおうちにお邪魔したり、日本でのランウェイのキャスティングを手伝ったり、僕にとって切っても切り離せない存在というか、でも友人でもないし、先輩でもないし、取引先でもないし、なんだかふわふわした存在なんです。実はいまだに存在しているか分かっていません。公三郎さんと話しているとなんだか足元がフワフワします。
魂に触れたんだろうと思います。
イタイ