Diary 172 - 真面目に不真面目

Diary 172 - 真面目に不真面目朝起きてすぐ、音楽をかける。携帯を開き、タバコを吸いながら、流れる曲に耳を傾け、今日は何を着ようかなと考えている。朝一番の曲によって、その日の洋服が決まる。子どもの頃から今も変わることなく、音楽を聴くことは欠かせない。音楽が自分のファッションや精神を作り上げてくれた。

2018年に公開された映画「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」で、ドリスさんが流行りの曲には縁がなく、クラシック音楽を聴いて育ったと語っていたことを思い出した。映画でフィーチャーされているようなドリスヴァンノッテンらしい花柄の服はお店にほとんど並ばないけれど、ドリスさんのパーソナルな音楽遍歴については強く興味を覚えた。僕はビートルズを聴いて育った。だから、生まれも育ちも大阪の僕に、ビートルズ的なブリティッシュの精神が生きている。同じように、ドリスさんの一挙手一投足には、クラシックの精神が生きているに違いない。

彼が作る洋服は、テーラードジャケットに代表されるクラシカルなものはもちろんとして、スウェットやTシャツ、レザーグッズに至るまで、単なる流行りの曲、という枠組みに収まらない。それが、ドリスヴァンノッテンをドリスヴァンノッテンたらしめている理由であり、今どき、野良のギャルが足袋ブーツを、千鳥のノブが4つタグ付きのノーカラージャケットを着はすれど、ドリスヴァンノッテンのアイテムを身に纏うことはない理由だろう。僕は老舗メゾンにも関わらず、ファッションが好きな人は全員知っていて、ファッションが好きでもない人はほぼ知らないという、その稀有な立ち位置が一番好きなところだ。真面目?不真面目?

Dries Van Notenのジップアップシャツ。サックスブルー、イージーアイロンのコットンポプリン、ウォッシュの効いたデニムの2種類。やや細身のボックスシルエットに、ドレスシャツ然とした、真面目な印象のレギュラーカラー。そこに不真面目な艶消しシルバーの小ぶりなダブルririジップ、左胸のパッチポケット。真面目なドリスさんが、10年前の流行りの曲を聴いて、少し悪ぶる感覚。真面目な人の不真面目ぶったクリエイションジップアップなのに、比翼仕様。ふつうの感覚なら、ジップアップならデザインとして見せたいな〜。なんて思うけれど、真面目なドリスさんはその不真面目さは許さない。極め付けはネクタイを占めても違和感のない、トップボタン。遊び方は上品に、それが紳士のマナー。どれだけふざけても、育ちは隠しきれない。タックインなんてしなくてもいい!真面目にふざけなさい、と言わんばかりのスクエアカット。真面目?

不真面目?
Dries Van Notenのジップアップシャツは決して真面目なシャツではない。けれど、真面目で育ちのいい人が作った、不真面目に着られるシャツだ。不真面目な人が作った真面目なシャツも、真面目な人が作った不真面目なシャツも、シャツ、みたいな真面目風のフォーマットを使って、ファッションを楽しんでほしいという気持ちから生まれたものだ。

だから、自分らしく着たいように、着たいままに着ればいいと思う。

ヨシダ・ユウゲンズブール

Recent Post