Diary 222 - 背中で語る

Diary 222 - 背中で語る

誰かの背中を見て育つ。

そんな経験はあるだろうか。今のご時世、多くを語らないというのは流行らないかもしれない。だけど、僕は今までを振り返って、父親の背中を見て育ったと感じる。

今では、父とはお互いよく話すようになったなと思う。子供の頃は、あまり話す機会もなく、少し怖い存在であった気がするけど、不思議と父を尊敬して、これまで育ってきた。

背中が何かを語っていたのかもしれない。いや、間違いなく雄弁であったと思う。洋服が特別好きな父ではなかったが、一つのことをつき貫く姿勢、真摯な姿勢を教わった。自分も洋服屋として、洋服を通して自分が得てきたものを、生っぽく真摯に届けられるように、日々店頭に立っている。

店頭では、たくさんお話しをするが、すべてを伝えられるわけではないと思う。できる限りの言葉を伝え、言葉にはならないくらいの感覚、姿勢、気持ちのところは、自分の背中で伝えられるようになりたい。自分が父の背中から受け取ったように。

僕が背中で語ることが出来ているのか、よく分かっていない。だけど、背中が語っていると感じるコートがある。

Kiko KostadinovのKormos Military Coat。ゆったりとしたフィット。ひざ下までかかるロング丈。フロントにはブルガリアの伝統刺繍のような立体的な刺繡。ミリタリーコートのような土臭い雰囲気、自分を強く見せてくれるナポレオンジャケットのような雰囲気。そんな煌びやかで力強いボタンディテールは、肩から背面に。

ブルガリア出身のKiko Kostadinovは、父親の仕事の関係でロンドンへ引っ越すことになった。当時、彼の父は建設現場で働いていて、よく父の仕事の手伝いをしていたそうだ。構造物のように緻密なディテール、無駄のないパーツ使いなど、Kiko Kostadinovの洋服は、洋服の持つ裏側の骨組みが表面に現れたような構造的なデザインが特徴的だ。

それは父の職場で得たものだろうし、彼自身も父の背中から何かを感じ取ったのだと思う。彼の物づくりに貪欲な姿勢や、ブランドとしての態度には間違いなく、そんな経験が息づいていると感じる。

僕はこのコートから、男らしさを感じる。背中で語ることが男らしいのではない。背中で語れる男になりたい。

Kiko Kostadinov / Kormos Military Coat - Washed Brown / Slate Grey

ヨシダユウキ

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