Diary 198 - 押し付けがましくない

Diary 198 - 押し付けがましくない服屋として、できるだけ押し付けがましくないことを信条としている。

自分の洋服に対する想いや思想は、そもそも言葉で100%伝える物ではないと思っている。だから、僕は基本的に雑談しかしない。ただ、最低限のガイドは必要だと考えているので、言葉を使って商品やコレクション、ブランド背景の説明はきちんとするし、商品紹介のツールとしてのビジュアライズも行っている。

もちろんその中で多少のお節介、というものはあるのだけれど、基本的に洋服を単に最高、とか、究極の、とか、一生もの、とか、そういう言葉遣いはできる限り避けたいし、あくまでも色んな選択肢がある中で僕はこれを選んだよ、というスタンスでいたい。

世の中には素晴らしい服屋がたくさんあるし、せんべろの居酒屋から高級フレンチまで、どれも欠かせないように、あくまでも選択肢の一つとして考えている。ただ一方で自分達がやっている仕事が唯一無二の至上の仕事である、とも思っているし、そうでなければならないと思っている。

自分たちの仕事が、レストランでいうとどういう立ち位置になるかは分からないけれど、ちょっと入りづらくてニッチ、けれど今っぽい居酒屋がMukta、間違いなくふつうなら特別な日に行くような、コース料理を提供している予約必須のお店がSalみたいなのが今のラインナップのイメージだろうか。(カテゴライズなんてほんとなんでもいいんだけれど、昨日そういう話を神戸の料理人としていて面白かった。)そのSalの構成要素として欠かせない存在になったDries Van Noten。僕はこのブランドの過去へのリスペクト、未来への志向を欠かさないブレない姿勢が好きだ。また、数十年ブランドを続けてきたおかげか、多分に余白がある。つまり、お店によって異なる表現ができる。お店がブランドに食われることもないし、ブランドがお店に食われることもない。一方がもう一方を骨付きチキンのように貪り尽くしてぽいっ、みたいなお店もブランドも多いけれど、Dries Van Notenは洋服への愛、着る人への愛、売り手への愛、チームへの愛、関わる全ての人に対するリスペクトを感じるからだろうか、多くのお店に、多くの人に愛されているブランドであるのは間違いない。

僕はDries Van Notenと出会って洋服を扱う価値観が変わった。厳密に言えば、Dries Van Notenの洋服をお店に並べるようになって変わった。ファッションの原体験がヨウジ・ヤマモトだとするならば、バイヤーとしての原体験がドリス・ヴァン・ノッテンだ。過去へのリスペクトの仕方、未来へと向かう姿勢、チーム作り、手仕事の尊重、素材への拘り、シルエットの美しさ、エレガンスの感覚、ファッションを楽しむ気持ち、資本主義との向き合い方、文化と洋服、アートの関係性、挙げ出せばキリがないし、その多くは自分の解釈による想像の部分が大きいのだけれども、とにかくそれくらい僕にとってドリスの存在は大きい。そんなドリスヴァンノッテンの新しいコレクション。ドリス氏が引退後、新しいディレクターのジュリアン・クロスナー氏が就任前の、デザインチームが手がける、唯一のコレクション。ドリス・ヴァン・ノッテンらしい手仕事と質実剛健なテーラリングに、柔らかいフェミニンなムードはそのままに、デザインチームの瑞々しいフレッシュなエッセンスと良い意味で荒削りな部分が加わっている。

ただ当初はそこまで期待をせずに見にいったパリでのショールームで、一際輝いて見えたピース。羽織った瞬間、ああ、服屋としてこういうのやんなきゃダメだよなと思わされたセクシーなワインレッド、ハラコ素材のライダースジャケット。こういうのやんなきゃ、ダメだよな。何をやるか、ではなく何をやらないか、ということをバイヤーとして重んじているものの、これはやんなきゃダメだと思った。一応、お店のグループラインでこれヤバいんだけどどうかなー?なんて様子を伺ってみると、スタッフ満場一致で賛成していた。アホな店だな。この一着がその人の世界を変えるかどうかは僕には分からない。ただ、このライダース・ジャケットを見て、お店に並べる決意をしたことは少なくとも僕の世界を変えたし、「服屋としてこういうことをやらなければならない」「このライダースジャケットを扱うお店として振る舞わなければならない」と、お店の意識を変えた。良い家具を買う感覚に近いかもしれない。売り手の資質が求められる、そんなピース。少し押し付けがましいようだけれど、あなたの街の、近所の小さな服屋にこのピースがあることを楽しんでもらえたら嬉しい。着るのは自由。着方も自由。

まずは気軽に、繊細に、羽織ってみてください。

Dries Van Noten / "LODZ" - Calf Hair Biker Jacket, Wine Red ¥810,700

エポーレット、ウエストベルトにアクションプリーツ、コインポケット。Schottに代表されるオーセンティックないわゆるアメジャンの作り。ゆとりのあるリラックス・フィット。ダイヤモンド状のキルティング・ライナー。ベルベットのように美しいカーフヘアの毛並み。付属は全てRiriジップ。ちゃんと動物の匂いがする。

本コレクションのインスピレーション源である、映画:Wild Boysの世界観に通ずる、退廃的でドリーミー、危うく、繊細で、少しキッチュなライダース・ジャケット。このライダース・ジャケットに押し付けがましさが一切ないのは、余計なことをひとつもしていないからだと思う。ちなみに黒のカーフ・レザー版もあったけれど、背面の花モチーフのプリントが趣味ではなかったのでパス。

今週末はDries Van Notenのアイテムを中心に、秋めいた今にぴったりなラインナップでお待ちしております。

https://mukta.jp/collections/dries-van-noten

イタイ

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