Diary 234 - ありのまま

Diary 234 - ありのまま

先日、井伏鱒二の「川釣り」という本を読みました。井伏鱒二といえば、「山椒魚」や、「黒い雨」、「荻窪風土記」など、国語の教科書にも載っている素晴らしい作家です。無類の釣り好きだったそうで、「川釣り」は、その釣り体験がまとめられた随筆集。

その中で大きな衝撃を受けたのが、「白毛(しらが)」。釣りに出かけたところ、2人の若者が喧嘩しているのを見かけます。電車に釣り糸を忘れたことがきっかけで、その責任の押し付け合いをしていました。鱒二はそれを止めに入り、年上らしく説教をする。しかし、若者たちには全く響きません。それどころか、お前の白髪は釣り糸にぴったりだ、と羽交い絞めにされ、白髪を30本も抜かれてしまうというお話です。

正直、身も蓋もない話で笑ってしまいました。凡人なら、例えば相手を正しく見極めることが大事とか、何かの教訓や気づきへオチをつけるのかもしれません。鱒二はそんなありきたりな結末にはしません。というか、白髪を抜かれたことに関しては、繰り返し腹が立ったと書かれているだけです。

みっともないことをありのまま書き記し、僕たちに読ませてくれているわけです。ありのままをさらけ出す事の難しさ、偉大さを、日々実感しています。せめてブログでは、聞き飽きた教訓ではなく、リアルに率直に、生っぽく服の魅力をお伝えできればと思います。

というわけで、Dries Van Notenのウールツイードブルゾン。昨年リリースされたアイテムですが、僕にとっては今が旬

用いられた生地はスコティッシュ・ツイードの最高傑作と言われる、Lovat Mill社の”Talla”。品種の異なる2種類の羊毛を、"ケンピー繊維"を含んだままブレンド。"ケンピー繊維"とは、人間でいうところの白髪。そんなブリティッシュウールを伝統的な工法で染め上げ、紡がれる。Tallaツイードの奥行きある色合いは素朴で粗野な雰囲気と、上品で力強い雰囲気を併せ持っている。まさしく最高級ツイード。

スコットランドの誇る素晴らしいツイードを、ジャケットでもコートでもなく、モーターサイクルブルゾンのような、タウンユースに適した洋服に。ドリスさんの洋服は、生地とか作りとか、クラシックウェアの一番いい上澄みを楽しめるように作られているように感じる。クラシックな生地でクラシックな洋服、もちろんいいんだけど、今の僕たちにはまだ早いというか、もっと遊びたいなって思う気持ちに、このブルゾンは応えてくれる。クラシックへの入り口であり、モードへの答えでもある。

みっともなくたって、情けなくたって、ありのままかっこつけて着て欲しい。

Dries Van Noten / "Viller" Rustic Wool Tweed Blouson

Collection of Diary 234

ヨシダユウキ

 

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