MR IT. (このシャツを着てどこへ)

半年に一度のパリ、半年に何度かの東京、半年に数えきれないショート・トリップ。どこか/なにかを求めて常に移動を続けている。旅が日常になり、日常が旅になる。人生とは移動だ、と言えるくらい、自分は移動の時間を尊く感じている。免許を持っていない自分にとって、移動手段は車以外。電車、バス、自転車、徒歩、たまにタクシー。僕がある地点から別のある地点に移動する時、それは主体的ではなく、乗り物によって、ただ単に運ばれている。受動的に移動させられている。その移動時間は、神戸であろうと、大阪であろうと、京都であろうと、東京であろうと、広島であろうと、福岡であろうと、名古屋であろうと、パリであろうと、フィレンツェであろうと、ロンドンであろうと、バルセロナであろうと、ソウルであろうと、四国であろうと、まだ行ったことのない土地でさえ、等しく存在する。窓からの景色やそこにいる人々の様子は違えど、自分の中で流れているその時間は、いつだってどこだって等しい。時間潰しにYoutubeを見る、気になる小説の続きを読む、物思いに耽る、ピープル・ウォッチングをする、ラップ・トップで作業をする、いつだってどこだって等しい。受動的に移動させられている中で、自分の中に流れる、常に変わらない主体的な時間があるのだ。だから、移動の時間は尊い。昔、移動距離とアイデアは比例する、という誰かの名言を、会社の代表である宮崎に教えてもらった。この強制された主体的な時間だからこそ、オンでもオフでもない、緩やかにアクセルを踏んでいるような、一本ピンと張った線を保てるのだろう。いや、免許は持ってないんですよ。

Chemise - シュミーズとは元々ヨーロッパにおける肌着のこと。ドレスの世界ではシャツは肌着なので基本的にインナーは着用しませんね。僕はドレス・マンではないので、普通にタンクトップ着ます。バルーンまでいかない丸めのスリーブ、肘の内側にはダーツ、カフスは少し長め、袖口は僕の好きな'いってこい'仕様。肩線とヨークの一部にギャザーでふんわりと。最近トップスはデカめが気分なのでワンサイズ。1920~30年代くらいのフレンチインディゴリネンのスモックが前開きになって、気持ちドレッシーになったみたいなイメージ感でいいと思います。

mister it.は"オートクチュール・フォー・エブリデイ・ライフ"というスローガンをもとに、特定の誰かの日常にフォーカス、オート・クチュールやアーティザナル的な背景を用いて、洋服や雑貨を製作している。ある特定の人の日常の些細な出来事を拾い上げて、洋服作りをすることで、-- 例えば、真面目さとチャーミングさを兼ね備えた友人に向けて作った、ハート型のパッチ・ワークからできたドレス・シャツ、たくさんの物を持ち歩くけれど、鞄を持たない友人に向けて作った、大きなポケットがあるジーンズなど -- それらは特定の人以外にとっては新鮮な驚きに映る。パーソナルを突き詰めることがかえって、より多くの人に寄り添ったモノになる。100人中100人のために作った均一的な服は誰の個性にも寄り添わない。MMMで培ったであろう、匿名性がかえってパーソナリティを際立たせるという感覚を、パーソナリティを際立たせることでかえって匿名性を生むという方向へ転換しているのは、時代感覚としても抵抗なく受け入れることができる。

というわけで。

僕らは色んな意味でとことん女性に弱いから、女性ではなく、僕たち男性のための服を作ってくれませんか、もっと言うと、烏滸がましいんですが、特に僕が出張や移動が多いので、そういう時に着られるシャツを作ってくれませんか、とお願いした。mister it.が女性に向けた服は男性も着ることができるし、きっと男性に向けた服は女性でも着れるはずだ。僕たちがTu es mon TresorやMonMon Houseの女性に寄り添ったジーンズを履いた時の新鮮さを感じられるのと同じく。

そうして、mister it. が初めてウィメンズでもなくユニセックスでもなく、メンズに向けて作ったシャツ。それがChemise - MR IT.

生地は着物から作られたデニム。不要となったシルクの着物をフレーク状にしたところから再び糸にして、生地を織り直す。所々に節があったり、一般的なデニム生地にはない毛羽立ちがあったり。不器用だけれど、思いやりを感じる、そういう風合い。胸のあたりにスッと入った白い線は、シャツを丁寧に折り畳んで持ち運ぶ癖が表れた、畳ジワのところだけ色落ちたような、誰かの痕跡。パリのメトロ・チケットを模した巨大なmister it.チケットが着物の帯のように飾られる。チケットにプリントされたQRコードからは、神戸のITレコメンド・スポットとパリのITレコメンド・スポットに飛べます。
Chemise - MR.IT "移動するシャツ"
8.16(Sat) Launch.

自分が洋服屋をやっている理由は、自分のためであり、親しい人のためであり、スタッフのためであり、よくお店に来てくれるあなたのため。それがまだ見ぬあなたのためになれば、何より嬉しい。この服と一緒に移動しながら日々を楽しんでもらいたい。

イタイ

P.S. 
8/17(日) 17:00~22:00ごろまで、行きつけのワイン・バーNofasaの上村氏に再びお越しいただき、レセプションとしてワインサーブをお願いしました。お盆・クロージングにぜひ遊びにいらしてください。ちなみに前回は22時までと言いつつ、結局2:00ごろまでいたな。遅がけの方はご連絡ください🙏

行きつけのワイン・バーに行く時も、場末の煙モクモクの居酒屋に行く時も、気になるあの子とのデートでも、カジュアルな商談でも、ナイト・クラブに遊びに行く時も、酔っ払って路上で寝ても、自分にぴったりのシャツになりました。特別な日も、そうでない日も、変わらない自分でいれる。mister it. 砂川さん、ムチャぶり / 素敵な企画をありがとうございました。

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