Diary105 -二項対立

Diary105 -二項対立

僕は通勤中、本を読むのが日課で、今は『怪人二十面相』を読んでいます。名探偵と大怪盗の推理対決を描いた物語です。主人公と悪役、正義と悪、体制と反体制、右と左、白と黒、2人の騙し合いの二項対立の関係が、お話をとても分かりやすくしています。二項対立は、問題をとても分かりやすく、明瞭にしてくれる。

しかし、自分自身や社会は、白黒ハッキリさせられることばかりではなくて、そこには曖昧さがあり、割り切れない部分も存在している。僕たち洋服屋は、二つに割り切れない奇数的な部分に、どのように向き合うか、解決していくかが役割であり、テーマだと思います。とても大袈裟に言うと、社会的な意義さえ感じます。ドレスとストリート。デニムにジャケット王道スタイルですが、デニムシャツを襟出しで合わせることで、スタイリングにアクセントを。Dries Van Notenのデニムパンツ。のっぺりした色落ちと太ももから裾へのゆるさがストリートでキッズな雰囲気のパンツ。

どうして、僕が社会意義なんてことを言い始めたのかというと、そういったことを考えさせてくれるような、勝手にそんな風に感じてしまうようなデザイナーを知ったからです。それがWales Bonnerを手掛ける、Grace Wales Bonnerです。

Wales Bonnerのクリエーションを、Wales Bonnerたらしめているのは、ヨーロッパの伝統的なフォーマルウェアとアフロ・アトランティックの精神の二項対立です。その中でもタキシードはほぼ毎シーズン、コレクションのベースであり、欠かせないアイテムになっています。

ドレスとラギット。ライトなコーデュロイが土臭い赤茶色は粗野な雰囲気があり、ジャケットとの合わせは新鮮です。
Omar Afridiのフレアショーツ。立体裁断のフレアは、裾の後ろ側が跳ね上がるようなフレアで、足を少し曲げているような不思議なシルエットで、ニッカポッカーズやジョッパーズのような雰囲気のあるパンツです。足元は、KIDS LOVE GAITE別注のMishimaにオリジナルのアーガイルソックスで、ドレスライクなバランスに。

艶やかなブラックの生地に、ダークブラウンのサテン生地があしらわれています。左見頃のラペルだけに施されたサテン生地は、Wales  Bonnerのアフロ・アトランティックの精神が、左胸に宿っていることを象徴するかのようなデザインに感じます。最高級のドレスさと粗野な土臭さ、クラシカルなジャケットに宿ったブラックカルチャーの精神を感じさせるWales  Bonnerらしいジャケットです。

ベースはバラシアウールというウールが使われています。バラシア生地とは切れ切れの短い畝が表面に現れる艶やかな生地のことで、さらりとした風合いは季節を問わず、ゆえにフォーマルウェアではとても重宝されてきました。


そんな二項対立なジャケットだからこそ、粗野でカジュアルなパンツを合わせても、ドレスでフォーマルなパンツを合わせても、カッコいいんじゃないですか。簡単に割り切ってしまったり、単純に白黒決めつけるだけじゃ終わりたくないって思います。どう向き合うのか、どう解決をするのかを考えた先に、こんなジャケットがあると感じています。

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ジャマイカ出身の父親をもつ彼女は、ブラックカルチャーと卓越したテーラリングをベースとしたメンズウェアのコレクションを展開しています。2014年の立ち上げ以来、2015年にはブリティッシュファッションアワードのメンズウェアデザイナー賞を受賞。2016年、LVMHプライズにてグランプリを獲得。ブランドは一躍スターダムへと上り詰めました。ヨーロッパの伝統とアフロ・アトランティックの精神、洗練されたドレスウェアと粗野なスポーツウェア、オケージョンとデイリー、クラシックとモダン、メインカルチャーとサブカルチャー、階級と非階級、固定的と流動的。一見矛盾、相反する要素を、Wales Bonner独自の洋服や世界観、スタイルへと昇華している。


ヨシダユウキ

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