紫陽花 / "テクテク" ウェア

例えば、雨の匂い。蒸し暑い室内。湿ったアスファルト。雨蛙の鳴き声。乾かないタオル。傘。合羽。そして、紫陽花。

きっと梅雨がある6月は一年のうちでも嫌われ者なのだろう。僕も学生の頃、部活動をしていた時は、練習ができずにもどかしさが募る時期であまり好きになれなかったし、梅雨が明ければ待っているのはうだるような暑さで、それまでのカウントダウンのような心地がして尚更嬉しくないのだ。

けれど、気づけば最近は昔より6月のことが好きになっていた。
幸か不幸か、現在の状況下で以前より確実に一日を長く、大切に過ごしているし、四季の移ろいを確かに楽しんでいる自分に気づいた。
ひょっとすると、順調に年齢を重ねられているんじゃなかろうか、なんて気がした。

変わらないことは、そういう移り変わりが自分には心地がいいことだ。
四季の移ろい、人間関係の変化、環境の変化、そして、洋服の嗜好の変化。自分という人間が絶えず不定形で、変化していく様は少しのスリルと楽しみがある。
変わることが楽しいということはこれからもまだ変わらなそうだ。


紫陽花という花は日本原産の花だが海外でも普及し、逆輸入的に西洋紫陽花として日本に広まったそうで、花言葉は「移り気」らしい。

小学生の頃、近所に咲いた紫陽花は、いつも雨が降る前の曇天とセットだった。
青、ピンク、白、紫。カラフルで、見た目にも可愛らしいお花だけれど、曇り空にコーティングされたせいか、子供ながらどこか悲しげな印象がある花だ、というふうに感じていた。

一年に1ヶ月ほど現れ、梅雨の時期にしか咲かないのに、その梅雨によって無残に散っていく。茶色にしおれて、アスファルトにへばりついている。

 そういう、悲しげで儚い、幻想的な花だった。


ませたクソガキだった僕はそんな紫陽花に酔いしれていたわけだが、ある日の授業で突然、現実に引き戻される。

「アジサイの色はその根を張る土が酸性かアルカリ性かによって...」

幻想的で神秘的だった紫陽花は、それ以来、単純な法則によって色が変わるという科学的なイメージが付きまとい、儚さの象徴だった咲く期間の短さはなんだか自然の残酷さを感じさせる、そんな極々現実的な花へと成り果ててしまった。
おまけに花弁だと思っていた部分は花のガクらしい。なんだそれ。

振り返れば、それが人生で幻想を打ち壊された初めての経験だったのかもしれない。

この間、朝帰りに久しぶり(のような気がする)にアジサイを見た。青、ピンク、白、紫。やはりすごく綺麗だと思った。朝焼けと相まって、なんだか儚かった。
それと同時に、無意識に、ああ、こっちは酸性で、こっちはアルカリ性なんだ、と頭の引き出しが開く。

それは幻想と現実が自分の中で交差した瞬間だった。
その狭間が、自分には心地よかった。

今、Salでは"From Escape" / 逃避行なんてイメージで洋服を並べています。
一方、Muktaではもう少し現実的な、それはデザイン的にリアルクローズであるというよりかは、(僕からすれば全てリアルクローズなんですが)着心地がいいであるとか、通気性がいい、肌触りがいい、雨や風を防ぐといった、洋服としての本来の役割にフォーカスしたイメージで洋服を並べています。

機能性が高い服、というのもなんだか違うような気がします。Muktaにはおそらくこれからも、「テックウェア」というものは並ばない気がします。
僕のイメージでは「テックウェア」というのは第一の目的がファッションや着る喜びではないと思っているので、「テックウェア」をファッション的に着こなす、ということは理解できるものの、それを販売します。とはならないからです。

オーガニック教の信者というわけではないのですが、リネンやレザー、デニムやコットンにも十分機能性はありますし、さらにはオイルド、ベンタイルなんて天然素材のテック素材まである。経年変化というオマケも付いています。

化学繊維にしても、ゴアテックスまではあんまり興味がないし、テニスをする時に着ていたローテクなポリエステルやナイロンで十分心地いい。いわゆるシャカシャカで雨は防げるし、風も。
この間うちの宮崎さんは「気づいてんけど、レザーって昔のテックウェアじゃない?」って言ってました。わかります。

だから、今Muktaに並んでいるのは、「テックウェア」なんて格好いい響きじゃなくて、現実的に着心地が良くて、洋服に本来求める機能性を全うしてくれて、日常生活に馴染みがあって、どこか鈍臭くて、長くゆっくり付き合っていけるような、そういういわば「テクテクウェア」。

梅雨の時期の休みの日には、蒸し暑い室内を出て、湿ったアスファルトの上を傘をさしながら、テクテク歩いて、雨の匂いにたっぷり包まれた紫陽花を見に行ってみてください。

たぶん、いまの時期はそういう時に着たくなるような服がMuktaとSalには並んでいるような気がします。

梅雨、楽しいですね。

イタイタイコウ





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