Diary 189 - わかんなくてもいいし、わかってもいい
Diary 189 - わかんなくてもいいし、わかってもいいAW25シーズンのインスピレーション源の一つと語る、ロシア生まれのアーティスト、Kon Trubkovich。- "KON TRUBKOVICHは思慮深く繊細な表現の芸術家である。彼は自身の作品の物語性/非物語性に直接結びつき、鑑賞者に強烈な個人的感情を喚起する。一見しただけでも、彼の作品には夢幻的で神秘的な性質があり、個人的かつ歴史的な情感に極めて富んでいる。鑑賞者に自身の集合的体験への入り口を提供し、彼は自身の作品を「精巧な自画像」と称する。"
わかることの方が多い時代に、よくわかんないな、みたいな価値が定まっていないものの存在ってとても興味深くて。「よくわかんないものがあることがわかった」ということに僕は対価を払うタイプ。神戸の元町映画館や大阪のシネ・ヌーヴォに行ったときに、ついつい東欧とかアジアとかフランスとかイタリアとかの、よく分かんない実験映画みたいなものを見てしまうのに近い感覚。結局見ているうちに寝ちゃうことも多々あるんだけれど、そのよく分かんなかった映像が脳裏にトイレの汚れのように断片的にこびりついて、それは一種の気持ち悪さに繋がる。一方で、そのよく分からないインプットがまとめて回収されるタイミングがふとした拍子にあって、点と点が線になると、汚れを洗い流したようにスッキリとする。それを知ると、最初はよく分かんなくてもなんとなく面白そうだなって思ったら受け入れる懐ができた。よく分かんないものをよく分かんないまま置いておいて、心地よいストレスとしている。Runway Image from KIKO KOSTADINOV AW25
さて、本みたいな服を作る、KIKO KOSTADINOV。彼の洋服を読み解いていくと、セントマ仕込みのそれはもう確固としたロジカルと、ファッションに対する愛から溢れ出るロマンが現れてくる。僕も全てを読み解くことができているか自信はないけれど、長年、彼のクリエイションを見ているとブランドの立ち位置がネクスト・フェイズに来ていることははっきりと分かる。東京、LAでの店舗展開、インディペンデント・ブランドとしては稀有な、外部から登用したウィメンズの双子姉妹のディレクターの存在、Otto 958の共犯者、Moran Moran - コンテンポラリー・アート・ミュージアムとの協業。ベルリンのアンダー・グラウンド・アーティストであり、レフトフィールドなエレクトロニック・ミュージックの名盤を多数輩出してきたPANのオーナーであるBill Kouligasがショー音楽を手がける。Kiko Kostadinovの面白いところは、難解そうに見えるロマンチックな服作りを基盤にしながら、アンダーグラウンドとオーバーグラウンド両方にわたって、コミュニティとカルチャーを作り出しているところだ。シルク・ウールの大判スカーフ。小さいスカーフと大きいスカーフがくっついたようなつくり。ノマド・イズムを感じる。アイテム名はコレクションのインスピレーション源である、ハンガリーの映画監督タル・ベーラから名前を取って、"Tarr Throw" 。ウール・モヘアの暖かいバージョンもあります。
"Tarr Throw"と共生地のニットジャケット。今回のコレクションではハンガリー軍やブルガリア軍のユニフォーム・ディテールを脱構築することで、自らのルーツとタル・ベーラ、多層のインスピレーションをシルク・スクリーンを重ねるように掠れた形で投影することを試みている。
クレイジー・パターンのボーダー。イカれた生地使い。キコのコレクションでは度々登場するチュニックは自分にとっても思い入れのあるピース。
装飾が施されたチェック・パンツ、シャギー素材のコート、ハラコ素材のネオ・フューチャーなショルダー・バッグ。いずれも空想の国のコスチュームのように感じられる。
洋服には単に快をもたらすものと、疑問を投げかけてくるようなある種不快をもたらすものと、2種類あると思っている。キコの服は大半が後者であり、思考停止にならないようにある種不快な洋服(着心地や機能性をキコがとても大切にケアしていることはもちろん知っている)を通じて刺激してくれるような存在だと思っている。そんなコレクション制作を続けることがどんなにハードか僕には想像もつかない。けれど、僕たちは着るだけだから、"Feel, Think"=「感じて、考える」、Kikoの服のことをそこまでよくわかんなくても楽しめるし、背景を汲み取ってよくわかっても楽しめる。(そういったブランドのあり方はCOMME DES GARCONSやSULVAM、CLASSなんかのMuktaのラインナップに通じている、と個人的には感じている。)そういえば、旧Mukta / Salスタッフであり現KIKO KOSTADINOV TOKYOスタッフ、田中くんにもそういうことを常々伝えていたし、彼もそのことをよく分かっていたように思うので、彼は人一倍Kiko Kostadinovに対する解像度が高いのだろう。Interview from GQ
実は、KIKO KOSTADINOVのコレクションを扱うのは今シーズンで一旦ストップする。過去に扱っていたStefan Cooke、Martine Roseしかり、好きが故に自分たちが取り扱うには半年に一度のシーズンのスピード感では早すぎた。自分達が周りのペースを気にせず、ゆっくりとコレクションを読み解いていけるようになったタイミングで、再開したいと思っている。
というわけで。いつにも増してキコラーに媚びずにピュアに自分が欲しいものだけを仕入れた今シーズン。1人の洋服好きとして、ハイプや下心とは一切無縁のピュアなセレクションで、我ながら気に入ってます。自他ともに認めるキコオタクの田中くんもきっと褒めてくれると思います。まずは店頭にてご覧ください。
よろしくお願いします。
イタイ
P.S. 9/14(日) 夕方ごろから再びNofasaの上村氏にお越しいただき、ワインサーブを行います。今週末もサプライズがあります。このワインサーブも月1回が恒例になりつつありますが、まだまだ暑い日が続くので、せめて美味しいお酒をシェアしたいのです。17:00 ~ 22:00を予定しておりますが、過去2回とも深夜までやってます。どうぞお一人でもお気軽にお越しください。僕もノファサに行くときはほとんど1人です。