噛み締める
先日、食と食器のイベントに参加させて頂いた。
コンセプトは「SUPER SLOW SHOKUJI」
その通り、とにかくゆっくりと食事を頂く。
運ばれてきた食事にがっつくのではなく、まずは目で見て、鼻で匂いを楽しみ、そして口へ運ぶ。
すぐに飲み込むのではなく、何回も噛んで食べ物を味わい、自分の中で分析する。
今までを省みると、自分も元々食べるのが遅い方なのだが、美味しい物を食べたときは早く次の一口へ、そしてあまり好みでない物の時は素早く飲み込んでしまい、味わうということをしてない事に気がついた。
「噛む」、という工程を蔑ろにしがちではないだろうか。
よく「噛む」ことで普段感じることのなかった味が自分の中で伝わり、噛んでいる間に味覚で分析を行なう。
普段急いで食べている時には存在しない情報量が、自分の中に入ってくる。
よく「噛む」という慣れない行為に対する違和感が、心地の良いものに変わり、見えない情報が流れてくる様な感覚。
なぜ自分は焦っていたんだろうとバカらしくなるほど充実した食事になった。
よく「噛む」、という事は食事にだけ当てはまる話ではなくて、何事にも一度立ち止まって物事を噛み締め、考えるという時間は必要だ。
流れる様に過ぎる時間を過ごす私たちは、ついつい直感で物事の良し悪しを判断してしまう。
一度「噛み締めて」、物事を考えてみてはいかがだろうか。
僕は、こと洋服についてはよく噛み締めて考えているつもりだ。
店頭に届いたばかりのMartin Roseを早速噛み締めてみる。
見た目はトラックジャケット・パンツだが、仕立てはテーラード。
ストリート・ウェアにテーラードを落とし込むというデザインはそもそも斬新だが、それをMartin Roseが作っているという事に意味がある。
クラブ・ウェアとはカジュアルなウェアである事に間違いはないが、クラブ・ボーイ&ガールはクラブに飛び切りのオシャレをしていくわけだから、クラブ・ウェアとは彼らにとっての正装だ。
Martin Roseといえばクラブカルチャー。
本人がかなり前のBrutas Magazineのインタビューで幼少期から兄弟に連れられて、クラブに通っていたと話していた。
そんなクラブシーンのエキスパートが作る正装は間違いなく格好良い。
カッチリした感じから外すなら、Made in Italyのペンキデニムでフーリガン・ルックなエネルギッシュな装いで。
イタリア製のペンキデニムに惹かれる、それは何故だか考えた所、思い当たるのはデニム生地そのものと、自分のペンキデニムに対するイメージの2つ。
生地の面で言うと、日本のデニムとはまた違った良さがある。
エイジングの加工技術はイタリアは優れていると感じる。
日本ではあまり馴染みのない、「親から子へ服を受け継ぐ文化のある」ヨーロッパ圏の人は古着に馴染みがあり、その感覚が優れているからなのだろうか。
それとも単純に機械の性能がいいから?
イメージの面で言うとHelmut Langのペンキデニムが脳裏にある。
アメカジに寄りすぎないミニマルなラングのデニムは25年近く経った今見ても良い。
対してMartin Roseは、雑に履き込んだかの様なダメージとフェードに荒々しさを感じるが、無骨になりすぎることなくフォーマルなシャツと合わせても締まる。
という事は言わずもがな、クタクタのシャツに合わせて格好良いだろうな。
色々自分なりの解釈を述べてみたが、Martin Roseは直感的に格好良いと思える服が多いのが事実、でも自分なりに咀嚼して考えた方が味わい深くなる。
GWという自由な時間が有る時に、是非皆様も服を選ぶ時に一度その時間を作ってみてはいかがだろうか。
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